遅れている不動産業界のデジタル化はアフターコロナで加速度的に進むだろう ~不動産DXが業界を最適化していく~

最近よく耳にする「DX(ディーエックス)」という言葉。 DXは、「デジタルトランスフォーメーション」の略で、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念。その内容は「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」というものです。
国内では、2018年に経済産業省から発表されたDX推進ガイドラインにより、いわゆる「2025年の崖」問題の克服を含め、社会全体で取り組む課題として大きな注目を集めました。
皮肉にもコロナ禍がアナログによる事務手続きの課題を露呈することとなり、行政のデジタル化が最も遅れていることが顕在化されてしました。
デジタル化の遅れが指摘され続けている不動産業界でも、DXへの取り組みは広がりを見せていますが、古い慣例も壁となり、思うように進んでいないのが現状です。

今回は、引き続き喜納COOにコロナ禍時代の「不動産DX」についてお話をうかがいました。

不動産業界はこのDXが活況ですが、業界についてお話する前に、簡単にDXについてご説明したいと思います。

よく勘違いされますが、古いシステム(レガシーシステム)を単純にクラウドに移行(リフト)することは、システムのマイグレーション(延命)でありDXとは少し異なります。DXはあくまでも、データとデジタル技術を活用して、新たなサービスやビジネスモデルを生み出すことにより顧客や社会のニーズに応え、その価値を高めた結果、競争上の優位性を確立するものです。

このような概念が広がる中、私たちが関わっている不動産業界でも、近年、ITベンチャー企業を中心に「不動産×テクノロジー」から生まれるサービスが次々と誕生しています。「不動産テック」と呼ばれているものです。

不動産テックは、物件検索、内覧、契約など、これまで多くの手間と膨大な時間がかかっていた賃貸や売買に関わる業務をデジタル化し、顧客がより良い物件選びができるように、不動産界会社のバックオフィスをはじめ、顧客サービスの向上に繋がるサービスとして大きな期待が寄せられています。

◇不動産テックの主な先端技術
AI: 物件画像、周辺情報、土地価格、築年数など、蓄積された物件関連のビッグデータをAIで解析。価格の可視化やマッチングなどの幅広いシステムに活用
IoT: スマートロックなどセキュリティシステムの強化が図れ、物件の価値や差別化が図れる
VR・AR :VRにより擬似内見が可能。ARを活用して、3D空間に家具などを3D空間で再現しレイアウトのシミュレーションができる
ブロックチェーン :物件のデータベースを、低コストで効率的かつ安全に管理できる

当社でもAIの技術を使って、間取から物件検索ができる「間取サーチAI」という三井のリハウスが提供するサービスの開発に関わらせていただき、これまでにない物件検索システムとして、反響をいただきました(2019年10月に三井のリハウスにてサービスリリース)。
現在も、当社では不動産テックのサービスに追いつけ追い越せで、先端技術を用いてさまざまなサービスの企画や研究開発に現状取り組んでいます。

不動産は一つとして同じものがない商品のため、ほかの商品と比較して検討することが難しく、また、不動産売買は高額な取引で、かつ多くの人が一生に一度しか経験することがないような取引のため、より多くの情報を入手し慎重に判断したいというのが消費者の心理でしょう。

そのような特性を持ちながらも、公開されている物件の情報には不明瞭なことも多く、より詳細な情報を求めようにも調べる手立てがないのが現状です。
これは売り買いする人、貸し借りする人、すべてに当てはまることであり、仲介する不動産会社も例外ではありません(仲介会社でも自社で取り扱う物件以外は潤沢に情報を保持しているわけではありません)。

それは、実際に流通している物件数と指定流通機構レインズに登録されている物件数の差だったり、その情報の精度自体の問題だったりします。
また、SUUMOなど民間企業が運営する物件検索サイトには、同じ物件が複数表示されますが、これは、一つの物件を複数の仲介会社が契約できる媒介契約制度によるところですが、こういった点も分かりにくく、不信感を与えることに繋がっているかもしれません。

このような状況を少しでも改善するために、情報の精度や透明度を高めるために、テクノロジーで解決できることは多くあると考えています。また、不動産テックの技術やサービスを繋げて不動産の取引を円滑に分かりやすくすることも重要ではないでしょうか。

不動産を売り買いすること、貸し借りすることに関わるすべての人々に対して、必要な時に必要な情報を、早く正確に取り出せる仕組みをいかに構築するのか、そういった仕組み作り、サービスを繋げる役割を当社は担うことができます。

テクノロジーは、業務の負荷を軽減することができます。
ただ使い方を間違えると、逆に負担を強いることにもなりかねませんので、業務の棚卸し、見直し(リエンジニアリング)とともに、システム化の範囲を絞り、推進することが競争力の向上に繋がります。

あいう

「住む」という視点からシステムをデザインしていく

新型コロナウィルスの影響により、当社でもリモートワークを導入することになりましたが、実際に中小企業でリモートワークを実施できた会社は多くはありません。特に対面が基本の不動産仲介業はリモートで業務をすることは、かなり難しいとうかがっております。お客様も感染防止のため、対面を極力避けるようになりました。

しかし、業務を止めることはできません。不動産業界はコロナ禍により、デジタル化の遅れ、データベースの信頼度、情報の透明性などの課題に、さらに踏み込んで取り組んでいかなければなりません。

私たちは不動産仲介業者へのシステム開発を得意としておりますが、これからは不動産にまつわる事柄を、「住む」という視点で幅広く捉えることで、これまでにデジタル化されていない、あるいは誰も気づかなかったところにアプローチしていけると考えています。

「人」と「住む」をどのようなテクノロジーで補っていくのか。
システムと業務をどうデザインしていくのか。

不動産DXに関わっていく中で、このような視点を持ちながら、コロナ禍時代を生き抜く、新しいシステムをデザインしていきたいと思います。

あいう

◆プロフィール
喜納秀行 取締役COO
沖縄県浦添市出身。ソフトウェア開発会社に入社後、2006年にITベンチャー企業に転職、2008年に不動産関連のWeb運営会社へ転職。2012年10月より三井不動産リアルティ株式会社のIT部門にてシステムの企画から導入までを手掛ける。2020年4月アヴァントのCOOに就任。趣味はゴルフやガーデニング、カメラなど多彩。